深刻化する製造業の人手不足を解消する切り札として、在留資格「特定技能」が注目されています。2019年に創設されたこの制度は、一定の専門性と技能を持つ外国人を即戦力として受け入れるためのものです。 本記事では、特定技能の中でも「工業製品製造業」分野に焦点を当て、制度の概要から受け入れ企業の要件、採用の具体的な流れまでを網羅的に解説します。
目次
特定技能「工業製品製造業」分野とは?
特定技能「工業製品製造業」分野は、日本のものづくりを支える重要な産業分野で、即戦力となる外国人材を受け入れるための在留資格です。深刻な人手不足に対応するため、専門的な知識や経験を持つ外国人が、日本の製造現場で活躍することを目指しています。
2022年の制度変更と3分野統合の背景
特定技能制度が開始された当初、製造業分野は「素形材産業」「産業機械製造業」「電気・電子情報関連産業」の3つに分かれていました。しかし、分野ごとに試験や手続きが異なり、企業と外国人材の双方にとって煩雑であるという課題がありました。そこで2022年5月25日に、これら3分野が「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野」として一本化され、手続きの簡素化や業務範囲の明確化が図られました。(その後、2024年3月29日の閣議決定により「工業製品製造業分野」に名称変更)。
参考:特定技能の受入れ見込数の再設定及び対象分野等の追加について(令和6年3月29日閣議決定)|出入国在留管理庁
特定技能で働く外国人の現状と今後の見込み
出入国在留管理庁の発表によると、2024年12月末時点で製造分野で働く特定技能外国人は45,183人にのぼり、特定技能全体の分野の中でも大きな割合を占めています。また、今後5年間での受け入れ見込み数は173,300人と、全分野の中で最も多く設定されており、製造業における外国人材への期待の高さがうかがえます。
| 項目 | 数値 |
| 特定技能外国人数(工業製品製造業分野) | 51,063人(特定技能1号、令和7年6月末時点) |
| 今後5年間の受入れ見込み数 | 173,300人 |
参考:出入国在留管理庁「特定技能1号在留外国人数統計(令和6年12月末現在
製造業で受け入れ可能な対象業務
特定技能「工業製品製造業」分野では、専門性に応じて「特定技能1号」と「特定技能2号」の2つの区分が設けられており、それぞれ従事できる業務内容が異なります。
特定技能1号の対象業務区分
特定技能1号では、指導者の指示を理解し、または自らの判断で作業に従事できるレベルの技能が求められます。対象となる業務は以下の10区分です。
- 機械金属加工
- 電気電子機器組立て
- 金属表面処理
- 紙器・段ボール箱製造
- コンクリート製品製造
- RPF製造
- 陶磁器製品製造
- 印刷・製本
- 紡織製品製造
- 縫製
特定技能2号の対象業務区分
特定技能2号は、1号よりも熟練した技能が求められ、複数の技能者を指導しながら工程管理を行う役割を担います。対象業務は以下の3区分に限定されます。
- 機械金属加工
- 電気・電子機器組立て
- 金属表面処理
主業務に付随する関連業務について
特定技能外国人は、上記の主業務に加え、それに付随する関連業務にも従事することが可能です。例えば、原材料の調達・運搬、清掃、保守管理などが該当します。ただし、これらの関連業務のみに従事することは認められていません。
受け入れ企業の要件
特定技能外国人を受け入れる企業には、いくつかの要件が定められています。主な要件は以下の通りです。
対象となる産業分類[優松1]
[優松1]参考:
特定技能1号の各分野の仕事内容(Job Description) | 出入国在留管理庁
特定技能制度 | 出入国在留管理庁
受け入れ企業は、日本標準産業分類において、特定技能制度の対象となる16分野(介護、ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、自動車運送業、鉄道、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、林業、木材産業)のいずれかに該当している必要があります。分野の該当性は、各分野の特有の基準に基づいて判断されます。
JAIM(一般社団法人工業製品製造技能人材機構)への入会
特定技能外国人を受け入れる全ての事業所は、経済産業大臣の登録を受けた「一般社団法人工業製品製造技能人材機構(JAIM)」への入会が必須となります。在留資格の申請前に入会手続きを完了させる必要があります。
参考:特定技能外国人材制度(工業製品製造業分野)(METI/経済産業省)
紡績・縫製分野で求められる追加要件
「紡織製品製造」および「縫製」の区分で外国人を受け入れる場合、適正な労働環境を確保するため、以下の追加要件が課せられます。
- 国際的な人権基準を順守していること(第三者機関による監査・認証が必要)
- 勤怠管理を電子化していること
- 「パートナーシップ構築宣言」を実施していること
- 特定技能外国人の給与を月給制とすること
| 追加要件 | 内容 |
| 人権基準の順守 | 第三者機関による監査・認証レポートの提出が必要 |
| 勤怠管理の電子化 | 指定の要件を満たすシステムの導入と活用 |
| パートナーシップ構築宣言 | ポータルサイトで宣言を公表 |
| 給与の月給制 | 安定的な給与支払いを保証 |
特定技能外国人の要件
特定技能の在留資格を得るためには、外国人本人も技能レベルや日本語能力に関する要件を満たす必要があります。
特定技能1号の取得要件
特定技能1号を取得するには、以下の2つの方法があります。
1つ目は、技能評価試験と日本語試験の両方に合格する方法です。技能試験は「製造分野特定技能1号評価試験」、日本語試験は「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」が対象です。
特定技能2号の取得要件
特定技能2号を取得するには、技能検定1級に合格するか、「製造分野特定技能2号評価試験」および「ビジネス・キャリア検定3級」の両方に合格する必要があります。加えて、日本国内の製造現場における3年以上の実務経験も求められます。
参考:ビジキャリ-特定技能2号の在留資格取得のための受験について:中央職業能力開発協会(JAVADA)
技能実習2号からの移行について
技能実習2号を良好に修了した外国人は、原則として日本語試験が免除されます。ただし、技能試験の免除は、従事しようとする業務と技能実習2号の職種・作業に関連性が認められる場合に限られます。関連性が認められない異なる分野で働く場合は、その分野の技能試験に合格する必要があります。
特定技能評価試験の概要
特定技能の在留資格を取得するための主要なルートである評価試験について解説します。
特定技能1号評価試験について
特定技能1号評価試験は、学科試験と実技試験で構成され、コンピュータを使って行われるCBT方式で実施されます。試験は従事しようとする業務区分ごとに用意されており、国内外の会場で受験することが可能です。合格基準は、学科試験が正答率65%以上、実技試験が正答率60%以上とされています。
参考:製造分野特定技能1号評価試験試験概要|製造分野特定技能評価試験|特定技能外国人材制度(工業製品製造業分野)ポータルサイト
特定技能2号評価試験について
特定技能2号評価試験は、より高い専門性が問われる試験で、技能検定1級レベルが基準とされています。この試験を受験するには、日本国内の製造現場で3年以上の実務経験があることが前提条件となります。
特定技能外国人を採用する流れ
実際に特定技能外国人を受け入れるための手続きは、以下のステップで進めます。
| ステップ | 内容 |
| ステップ1 | 求人募集・候補者選定 |
| ステップ2 | 特定技能雇用契約の締結 |
| ステップ3 | 1号特定技能外国人支援計画の策定 |
| ステップ4 | 在留資格認定証明書の交付申請 |
| ステップ5 | 査証(ビザ)申請・入国 |
| ステップ6 | 就業開始・支援実施 |
ステップ1:求人募集と候補者の選定
国内外の人材紹介会社などを通じて、自社の要件に合う候補者を探します。
ステップ2:特定技能雇用契約の締結
候補者と直接、雇用契約を結びます。この契約は、日本人と同等以上の報酬額であることなど、一定の基準を満たす必要があります。
ステップ3:支援計画の策定
受け入れる外国人に対し、職業生活上、日常生活上、社会生活上の支援を行うための「1号特定技能外国人支援計画」を作成します。この計画の実施は、自社で行うか、登録支援機関に委託することができます。
ステップ4:在留資格認定証明書の交付申請
必要な書類を揃え、地方出入国在留管理局に在留資格認定証明書の交付を申請します。
ステップ5:査証(ビザ)の申請と入国
証明書が交付されたら、現地の日本大使館または総領事館で査証(ビザ)を申請します。査証が発給されれば、日本への入国が可能になります。
ステップ6:就業開始と支援の実施
入国後、住民登録などの手続きを経て就業開始となります。企業は、策定した支援計画に基づき、定期的な面談や各種相談対応などの支援を実施します。
特定技能外国人を採用するメリット
特定技能制度の活用は、企業にとって多くのメリットをもたらします。
即戦力となる人材の確保
特定技能は、一定の技能水準と日本語能力を持つ人材を対象としているため、採用後すぐに現場で活躍できる即戦力を確保できます。
長期的な雇用が可能
特定技能1号の在留期間は通算で5年です。さらに、熟練した技能を持つ人材は特定技能2号へ移行することで、在留期間の更新に上限がなくなり、長期的な雇用が可能になります。
フルタイムでの直接雇用
特定技能外国人は、企業が直接雇用するフルタイムの雇用形態で受け入れることが原則ですが、正社員である必要はなく、契約社員での雇用も可能です。また、日本人従業員がいない場合など合理的な理由がある場合は、フルタイム以外の雇用形態も認められます。
特定技能外国人を採用するデメリットと注意点
メリットがある一方で、受け入れにあたってはいくつかの点に注意が必要です。
支援体制の構築が必要
企業には、特定技能外国人に対する包括的な支援計画の策定と実施が義務付けられています。これには、生活オリエンテーションの実施や定期的な面談、公的手続きの補助などが含まれ、相応のコストと労力がかかります。
参考:1号特定技能外国人支援・登録支援機関について|出入国在留管理庁
日本語能力の個人差
要件として一定の日本語能力が求められますが、コミュニケーション能力には個人差があります。円滑な業務遂行のためには、社内でのサポート体制や分かりやすい指示方法の工夫が重要になります。
協議会への加入義務
前述の通り、受け入れ企業はJAIM(一般社団法人工業製品製造技能人材機構)への加入が必須です。加入には手続きが必要であり、年会費も発生します。
まとめ
特定技能「工業製品製造業」分野は、製造業の人手不足を解消し、事業を維持・発展させるための有効な手段です。制度の要件や手続きは複雑な部分もありますが、即戦力となる人材を長期的に確保できるメリットは大きいと言えるでしょう。本記事を参考に、特定技能外国人の採用を検討してみてはいかがでしょうか。