企業の利益を最大化するためには、売上の向上だけでなく、経費の削減も重要な経営課題です。特に、商品の供給に直接関わる「物流コスト」は、企業の収益性に大きな影響を与えます。しかし、その内訳が複雑であるため、多くの企業でコストの全体像が把握しきれていない「ブラックボックス」の状態になっていることも少なくありません。本記事では、物流コストの基本的な構造から、具体的な削減方法、そして成功のためのポイントまでを体系的に解説します。
目次
物流コストとは企業の利益を左右する重要指標
物流コストは、単なる輸送費や保管費だけを指すものではありません。製品が生産者から消費者に届くまでの全ての物流プロセスで発生する費用の総称であり、その管理が企業の競争力を大きく左右します。
物流コストの定義と重要性
物流コストとは、商品の調達、生産、販売といった一連の事業活動における「モノの流れ」に関わる全ての費用を指します。これには、輸送費や保管費といった直接的な費用(支払物流費)だけでなく、自社スタッフの人件費や管理システムの維持費といった間接的な費用(自家物流費)も含まれます。このコストを正確に把握し、最適化することは、無駄な支出を削減し、企業の利益率を直接的に向上させるために不可欠です。
日本の物流コストの現状と動向
近年、日本の物流コストは長期的な上昇傾向にあります。公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の「2024年度物流コスト調査報告書」によると、2023年度の全業種の売上高に占める物流コストの比率は平均で5.44%となりました。これは過去20年間で最も高かった2021年度の5.70%に次ぐ高い水準であり、企業の経営において無視できない割合を占めています。
物流コストの主な内訳を5つの機能別に解説
物流コストを効果的に管理するためには、まずその内訳を正しく理解することが第一歩です。ここでは、物流活動の機能別に分類される5つの主要な費用項目について解説します。
| 費用項目 | 具体的な内容 |
| 輸送費 | 拠点間の輸送や顧客への配送にかかる運賃、チャーター便費用、燃料費など。 |
| 保管費 | 倉庫の賃借料、自社倉庫の減価償却費・維持管理費、在庫管理にかかる費用など。 |
| 荷役費 | 商品の入出庫、ピッキング、仕分け、検品、積込み・積降ろしなどにかかる人件費や作業費。 |
| 包装費 | 梱包材(段ボール、緩衝材など)の費用、梱包作業にかかる人件費。 |
| 物流管理費 | 物流部門の人件費、倉庫管理システム(WMS)の導入・運用費、情報管理費用など。 |
3:輸送費[優松1]
輸送費とは、トラック、鉄道、船、航空機などを利用して商品を移動させる際にかかる費用全般のことです。これには、外部の運送会社に支払う運賃だけでなく、自社で車両を保有している場合の燃料費や車両の減価償却費も含まれます。物流コスト全体の中で最も大きな割合を占めることが多く、JILSの調査(2024年度)によると輸送費は物流コスト全体の約56%(55.89%)を占めています。
保管費
保管費は、商品を倉庫などの施設で在庫として管理・保管するために発生する費用です。外部倉庫を利用する場合はその賃借料や保管料が、自社倉庫の場合は建物の維持管理費、固定資産税、火災保険料などが該当します。在庫量や保管期間に比例して増加するため、適正な在庫管理がコスト削減の鍵となります。
荷役費
荷役費は、倉庫内での商品の移動や取り扱いに関連する作業費用です。具体的には、トラックからの荷降ろし、倉庫への格納(入庫)、注文に応じた商品の取り出し(ピッキング)、仕分け、検品、そしてトラックへの積み込み(出庫)といった一連の作業にかかる人件費や、フォークリフトなどのマテハン機器の費用がこれにあたります。
包装費
包装費は、商品を輸送時の衝撃などから保護するために行う梱包にかかる費用です。段ボールや緩衝材といった梱包資材の購入費のほか、梱包作業を行うスタッフの人件費も含まれます。見落とされがちなコストですが、資材の選定や梱包方法の見直しによって削減が可能です。
物流管理費
物流管理費は、物流全体の仕組みを管理・運営するために必要な費用です。物流部門のスタッフの人件費、在庫管理や配送計画を行うための情報システム(WMSやTMS)の導入・保守費用、伝票処理などの事務作業費などが含まれます。物流全体の効率化を左右する重要なコストです。
物流コストの現状把握に不可欠な計算方法
自社の物流コストが適正な水準にあるかを判断するためには、客観的な指標を用いて現状を把握することが不可欠です。最も代表的な指標が「売上高物流コスト比率」です。
売上高物流コスト比率の算出方法
売上高物流コスト比率は、企業の売上高に対して物流コストがどれくらいの割合を占めているかを示す指標です。以下の計算式で算出できます。
売上高物流コスト比率(%)=物流コスト÷売上高×100
この比率を算出することで、業界平均と比較したり、時系列での変化を追跡したりすることが可能になり、コスト管理の重要な基準となります。
| 業種 | 売上高物流コスト比率(平均) |
| 製造業 | 5.37% |
| 卸売業 | 5.19% |
| 小売業 | 6.38% |
| 全業種平均 | 5.44% |
自社のコストを正確に把握する意義
多くの企業では、物流に関連する費用が各部門に分散して計上されているため、会社全体の物流コストが正確に把握できていないケースが少なくありません。例えば、工場内の在庫保管費が製造原価に、営業担当者が手配した緊急配送費が販売管理費に含まれているといった具合です。これらの費用を「物流コスト」として一元的に集計・可視化することで、初めて問題点が明らかになり、効果的な削減策を講じることが可能になります。
物流コストが高騰する3つの主な原因
近年、多くの企業が物流コストの上昇に直面しています。その背景にある主要な3つの原因を理解することは、適切な対策を立てる上で重要です。
燃料価格の上昇と円安の影響
物流業界では、労働環境の厳しさなどからトラックドライバーの高齢化と担い手不足が深刻な問題となっています。需要に対して供給が追い付かないため、人材を確保するための人件費は上昇傾向にあります。また、2024年4月から適用された働き方改革関連法により、ドライバーの時間外労働に上限が設けられた(いわゆる「2024年問題」)ことも、輸送能力の低下や運賃上昇に繋がると懸念されています。
EC市場拡大に伴う小口配送の増加
インターネット通販(EC)の利用拡大に伴い、個人宅向けの小口・多頻度配送の需要が急増しています。一度の輸送で大量の荷物を運ぶBtoB輸送と比較して、小口配送は積載効率が低く、配送件数あたりのコストが高くなる傾向があります。この配送ニーズの変化が、物流業界全体のコスト構造に影響を与えています。
物流コストを削減するための具体的な5つの方法
物流コストを削減するためには、多角的な視点からのアプローチが必要です。ここでは、即効性のあるものから中長期的な改善策まで、具体的な5つの方法を紹介します。
| 削減方法 | 概要 | 主な対象コスト |
| 物流拠点の集約と最適化 | 複数の倉庫や配送センターを統合し、効率的な配置に見直す。 | 保管費、人件費、輸送費 |
| 共同配送やモーダルシフト | 複数の企業で配送便を共有したり、輸送手段をトラックから鉄道や船舶に転換する。 | 輸送費 |
| 倉庫管理システム(WMS)の導入 | 在庫管理や庫内作業をデジタル化し、効率と精度を向上させる。 | 荷役費、人件費、保管費 |
| アウトソーシング(3PL)の活用 | 物流業務全体を専門業者に委託し、専門知識とスケールメリットを活用する。 | 全ての物流コスト |
| 梱包サイズの最適化 | 商品に合わせた梱包サイズに見直し、輸送効率を高め、資材費を削減する。 | 輸送費、包装費 |
物流拠点の集約と最適化
複数の地域に物流拠点が分散している場合、それらを集約または統廃合することで、コストを大幅に削減できる可能性があります。拠点を集約すれば、保管費や各拠点の管理にかかる人件費を削減できるだけでなく、在庫の一元管理が可能になり、拠点間の横持ち輸送といった無駄な輸送費も削減できます。
共同配送やモーダルシフトによる輸送効率化
特に地方への配送などで積載率が低い便が多い場合、同業他社や同じ配送エリアを持つ企業と協力して配送網を共有する「共同配送」が有効です。また、長距離輸送においては、トラック輸送から、環境負荷が少なく大量輸送が可能な鉄道や船舶輸送に切り替える「モーダルシフト」も、コスト削減とCO2排出量削減の両面で効果的な手段です。
倉庫管理システム(WMS)の導入
倉庫管理システム(WMS)を導入することで、リアルタイムでの正確な在庫管理が可能になり、過剰在庫や欠品のリスクを低減できます。また、ピッキング作業の最適なルートを示すなど、庫内作業を効率化する機能もあり、作業時間短縮による人件費(荷役費)の削減に繋がります。
アウトソーシング(3PL)の活用
自社で物流業務の全てを運営するのではなく、物流の専門知識とノウハウを持つ第三者企業(3PL:Third-Party Logistics)に業務を委託することも有力な選択肢です。3PL事業者は、複数の荷主の荷物を取り扱うことによるスケールメリットを活かし、効率的な配送網や倉庫オペレーションを構築しているため、自社で運営するよりもコストを抑えられる場合があります。
梱包サイズの最適化と資材の見直し
意外に見落としがちなのが梱包です。商品に対して過剰に大きい段ボールを使用すると、緩衝材が多く必要になるだけでなく、トラックの荷台のスペースを無駄に占有し、一度に運べる荷物の量を減らしてしまいます。商品のサイズに合わせた適切な梱包に見直すことで、包装費と輸送費の両方を削減できます。
物流コスト削減を成功に導くためのポイント
物流コストの削減は、一度きりの施策で終わるものではなく、継続的な改善活動が求められます。その取り組みを成功させるために重要な3つのポイントを解説します。
現状コストの可視化から始める
どのような改善活動も、まずは現状を正確に把握することから始まります。前述した計算方法を用いて、輸送費、保管費、荷役費といった機能別のコストを算出し、どこにどれだけのコストがかかっているのかを「可視化」することが第一歩です。これにより、削減効果の大きい領域や、非効率なプロセスを特定できます。
明確なKPIを設定し効果を測定する
コスト削減の取り組みを始める際には、「売上高物流コスト比率を現状の5%から4.5%に引き下げる」「倉庫の保管効率を10%向上させる」といった具体的な数値目標(KPI:Key Performance Indicator)を設定することが重要です。目標を定めることで、施策の進捗状況や効果を客観的に評価し、必要に応じて計画を修正することができます。
全社的な協力体制を構築する
物流コストは、物流部門だけの問題ではありません。例えば、営業部門の急な出荷依頼が非効率な緊急輸送を発生させたり、製造部門の生産ロットが過剰在庫の原因になったりすることもあります。物流コストの削減を成功させるためには、営業、製造、購買といった関連部門と連携し、サプライチェーン全体で最適化を目指すという全社的な視点が不可欠です。
まとめ
物流コストの削減は、企業の収益性を高める上で極めて重要な取り組みです。まずは自社の物流コストの内訳を正確に可視化し、どこに課題があるのかを特定することから始めましょう。そして、本記事で紹介したような具体的な削減策を検討・実行し、その効果を継続的に測定していくことが成功への鍵となります。