近年、多くの企業が「物流コストの高騰」という深刻な課題に直面しています。燃料費や人件費の上昇に加え、いわゆる「2024年問題」が追い打ちをかけ、企業の収益を圧迫する大きな要因となっています。このコスト上昇は一時的なものではなく、今後も継続する可能性が高いと見られています。
本記事では、物流コストが高騰している根本的な原因を5つの側面から深掘りし、企業経営に与える影響を解説します。そのうえで、明日からでも検討できる具体的なコスト削減策を7つご紹介しますので、自社の物流体制を見直すきっかけとしてください。
物流コストが高騰する4つの主な原因
物流コストの高騰は、単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発生しています。まずは、その背景にある5つの主な原因を正しく理解することが対策の第一歩です。
慢性的なドライバー不足と人件費の上昇
物流業界では、以前からトラックドライバーの不足が深刻な問題となっています。少子高齢化による労働人口の減少に加え、長時間労働や厳しい労働条件といったイメージから若手人材が集まりにくく、ドライバーの高齢化も進んでいます。
人材を確保するためには、賃金や福利厚生の改善が不可欠であり、これが人件費の上昇に直結しています。人件費は物流コストの約4割を占める主要な費用であり、その上昇はコスト全体を押し上げる大きな要因となっています。
| 費用の種類 | 営業費用に占める割合(2023年度) |
| 人件費 | 約37.7% |
| 燃料油脂費 | 約14.9% |
| 傭車費等 | 約5.1% |
| 修繕費 | 約5.6% |
| 減価償却費 | 約5.6% |
| その他 | 約36.1% |
参考:全日本トラック協会「経営分析報告書(概要版)-令和4年度決算版」
参考:全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業現状と課題2025」
「物流の2024年問題」が与える影響
2024年4月1日から、働き方改革関連法によりトラックドライバーの時間外労働に年間960時間の上限が設けられました。これが「物流の2024年問題」です。この規制により、一人のドライバーが運べる距離や時間に制約が生じます。
結果として、長距離輸送ではこれまで1日で運べていた荷物が2日かかったり、中継輸送が必要になったりするなど、輸送効率の低下を招きます。運送会社はこれをカバーするためにドライバーを増員したり、運賃を上げたりする必要があり、これが荷主企業のコスト増につながっています。
参考:厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」
EC市場拡大に伴う物流量の増加
コロナ禍を経て、消費者のEC(電子商取引)利用は急速に拡大し、定着しました。2024年の国内BtoC-EC市場規模は26.1兆円(前年比5.1%増)に達し、これに伴い個人宅向けの小口・多頻度配送の需要が大幅に増加しました。2024年度の宅配便取扱個数は50億3,147万個(前年度比0.5%増)となり、10年連続で過去最多を更新しています。
BtoCの配送は、BtoBの大口輸送に比べて配送先が多岐にわたり、一件あたりの荷物量が少ないため、輸送効率が悪くなる傾向があります。また、不在による再配達(2025年4月時点で8.4%)もコストを押し上げる一因となっており、物流量の増加が物流現場全体の負担とコストを増大させています。
参考:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」
参考:国土交通省「令和6年度宅配便・メール便取扱実績について」
倉庫賃料や保管コストの上昇
EC市場の拡大は、物流倉庫の需要も高めています。特に、近畿圏・福岡圏などでは、物流施設の需要が供給を上回り、倉庫の賃料が上昇傾向にあります。
また、倉庫内でピッキングや梱包作業を行う人材の確保も難しくなっており、人件費の上昇が避けられません。これらの倉庫関連コストの上昇も、物流費全体を高騰させる要因の一つです。
物流コストの高騰が企業経営に与える深刻な影響
物流コストの高騰は、単なる経費の増加にとどまらず、企業の収益性や競争力、さらには事業継続そのものを揺るがしかねない深刻な影響を及ぼします。
収益性の悪化と利益率の低下
物流コストは、売上原価や販売管理費に含まれる重要なコストです。このコストが上昇すると、企業の利益は直接的に圧迫されます。特に、薄利多売のビジネスモデルや価格競争の激しい業界では、わずかな物流コストの上昇が利益率を大幅に低下させる要因となり得ます。
商品価格への転嫁の難しさ
コスト上昇分を商品やサービスの価格に転嫁できれば、利益率への影響は抑えられます。しかし、競合他社との価格競争が激しい市場では、安易な値上げは顧客離れを招き、売上減少につながるリスクがあります。
日本商工会議所の調査によると、物流コストの増加分を価格転嫁できている企業は約4割(39.7%)となり、2024年7月調査の3割程度(32.3%)から改善しているものの、依然として多くの企業がコスト増を自社で吸収せざるを得ない状況に直面しています。
参考:日本商工会議所「商工会議所LOBO調査2025年7月調査結果」
参考:内閣府「『2024年問題』による物流費上昇の背景と物価に与える影響について」
サプライチェーン全体の停滞リスク
物流は、調達、生産、販売といった企業活動全体をつなぐ「血流」です。ドライバー不足や2024年問題によって輸送能力が低下すると、原材料の調達が遅れたり、顧客への納期が守れなくなったりする可能性があります。
このような物流の停滞は、生産計画の遅延、販売機会の損失、過剰在庫の発生など、サプライチェーン全体に悪影響を及ぼし、企業の信用問題にまで発展するリスクをはらんでいます。
物流コストを削減するための7つの具体的な対策
深刻化する物流コストの高騰に対して、企業はどのような対策を講じることができるのでしょうか。ここでは、すぐにでも検討・実行可能な7つの具体的な対策をご紹介します。
対策1:輸配送ネットワークを最適化する
自社の物流拠点(工場、倉庫、配送センター)の配置や、そこからの配送ルートが本当に最適かを見直すことは、コスト削減の基本です。AIを活用した配送計画システムなどを導入すれば、交通状況や荷量に応じて最も効率的なルートを自動で算出し、燃料費やドライバーの労働時間を削減できます。
対策2:共同配送や混載便を積極的に活用する
同じ方面に配送する荷物を持つ複数の企業が、一台のトラックをシェアして輸送する「共同配送」は非常に効果的な手段です。トラックの積載率を高めることで、一台あたりの輸送コストを分担でき、個別に輸送するよりも大幅なコスト削減が期待できます。特に、物量が少ない中小企業にとっては有効な選択肢です。
対策3:WMSやTMSを導入し物流DXを推進する
物流DX(デジタルトランスフォーメーション)は、コスト削減と業務効率化の両面で大きな効果を発揮します。WMS(倉庫管理システム)を導入すれば、在庫管理やピッキング作業が効率化され、倉庫内コストを削減できます。また、TMS(輸配送管理システム)は、配車計画や運行管理を最適化し、輸送コストの削減に貢献します。
| システム | 主な機能 | 期待される効果 |
| WMS(倉庫管理システム) | 在庫管理、入出荷管理、ピッキング支援 | 保管コスト削減、作業精度向上、省人化 |
| TMS(輸配送管理システム) | 配車計画最適化、運行状況管理、運賃計算 | 送コスト削減、配送品質向上、事務作業軽減 |
対策4:在庫管理を効率化し保管コストを削減する
需要予測の精度を高め、過剰な在庫を持たないようにすることも重要です。適正在庫を維持することで、保管スペースを圧縮でき、倉庫賃料や管理費を削減できます。また、在庫がどこにどれだけあるかを正確に把握することで、欠品による販売機会の損失や、拠点間の不要な在庫移動コストを防ぐことができます。
対策5:梱包資材や荷姿を見直す
過剰な梱包を避け、商品のサイズに合った段ボールを使用したり、緩衝材を最適化したりすることで、資材コストを削減できます。また、荷姿(荷物の形状)を標準化することで、トラックやパレットへの積載効率が向上し、一度に運べる量が増えるため、輸送コストの削減につながります。
対策6:物流アウトソーシング(3PL)を検討する
物流業務全体を、専門的なノウハウを持つ外部企業に委託する3PL(サードパーティー・ロジスティクス)の活用も有効な手段です。物流のプロに任せることで、自社で対応するよりも効率的で質の高い物流体制を構築でき、結果的にトータルコストを削減できる場合があります。自社のリソースやコア業務を見極め、アウトソーシングする範囲を検討することが重要です。
対策7:荷主として協力できること(荷待ち時間の削減など)
物流コストは、運送会社だけの問題ではありません。荷主企業の協力によって削減できるコストもあります。例えば、トラックが荷物の積み下ろしのために待機する「荷待ち時間」は、ドライバーの長時間労働の一因となっています。予約システムを導入して荷役時間を指定したり、パレットを活用して荷役作業を効率化したりすることで、運送会社の負担を軽減し、ひいては運賃交渉においても有利に働く可能性があります。
今後の物流コストの動向と企業が取るべき戦略
物流コストの高騰は、構造的な問題を背景としており、短期的に解消される見込みは低いと考えられます。企業は、この状況が継続することを前提とした中長期的な戦略を立てる必要があります。
コスト上昇は今後も継続する見込み
ドライバー不足は今後さらに深刻化すると予測されており、人件費の上昇圧力は続きます。また、2024年問題への対応コストや、環境規制の強化なども、物流コストを押し上げる要因となります。企業は、コスト上昇を前提とした事業計画や価格戦略の見直しを迫られるでしょう。
持続可能な物流体制の構築が不可欠
もはや、物流を単なる「コスト」として捉えるのではなく、事業を支える「重要な機能」として再評価し、戦略的に投資していく視点が求められます。DXの推進による徹底的な効率化や、他社との連携による共同化など、持続可能な物流体制を構築するための抜本的な改革に取り組むことが、企業の競争力を維持・強化する上で不可欠です。
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まとめ
本記事では、物流コストが高騰する複合的な原因と、それに対する具体的な対策について解説しました。ドライバー不足や2024年問題などを背景としたコスト上昇の流れは、今後も続くと予想されます。
この厳しい環境を乗り越えるためには、現状の物流体制を抜本的に見直し、DXの推進や共同配送、在庫管理の最適化といった多角的なアプローチでコスト削減に取り組むことが不可欠です。本記事で紹介した対策を参考に、自社の持続可能な物流体制の構築に向けた第一歩を踏み出してください。