物流倉庫での人手不足に頭を抱えていませんか?求人を出しても応募が来ない、あるいは採用してもすぐに辞めてしまうといった悩みは、多くの現場で共通しています。特に近年はEC市場の拡大に伴い、業務量は増える一方で、働き手の確保はますます困難になっています。
こうした状況を打破する切り札として注目されているのが、外国人の在留資格「特定技能」です。これまで物流分野ではトラックドライバーなどが先行して対象となってきましたが、倉庫内作業についても新たな動きが出てきています。この記事では、物流倉庫における特定技能制度の最新動向や対象業務、受け入れに向けた具体的な要件や費用について解説します。読み終わる頃には、自社でどのように外国人材を活用できるか、その道筋が明確になるはずです。
目次
物流倉庫の慢性的な人手不足、特定技能が解決策に?
物流業界はいま、かつてないほどの人手不足に直面しています。その背景には構造的な問題があり、従来のようなアルバイトやパートの採用だけでは現場を回すことが難しくなってきています。ここでは、なぜ今「特定技能」という制度に注目が集まっているのか、その理由を掘り下げていきます。
EC市場拡大で倉庫業務の負担が増加
インターネット通販の利用が日常化したことで、物流倉庫が取り扱う荷物の量は爆発的に増加しています。小口配送の増加や即日配送への対応など、倉庫内作業にはスピードと正確性が求められるようになりました。その結果、現場の業務負荷は高まり続けており、既存のスタッフだけでは対応しきれない状況が多くの企業で発生しています。
参考:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」
若手人材の不足と従業員の高齢化
少子化の影響により、倉庫作業の担い手となる若手人材の採用は年々難しくなっています。力仕事や夜勤が発生することもある倉庫業務は、敬遠されがちな職種の一つでもあります。その一方で、長年勤めてきた従業員の高齢化が進んでおり、数年後には大量の退職者が発生することも懸念されています。
長期雇用可能な特定技能制度に注目
このような課題を解決するために期待されているのが「特定技能」制度です。これは、一定の技能と日本語能力を持つ外国人材を受け入れるための在留資格で、特定技能1号は通算5年間、特定技能2号は更新により上限なく就労が可能です。従来の技能実習制度とは異なり、即戦力として期待できる人材を、一定期間安定して雇用できる点が大きな魅力です。
【関連記事】特定技能「工業製品製造業」とは?受け入れ要件から採用の流れまで分かりやすく解説|千里運輸オウンドメディア
そもそも特定技能とはどのような制度か
特定技能という言葉を聞いたことはあっても、その詳しい仕組みまでは知らないという方も多いのではないでしょうか。特定技能は、日本国内で人手不足が深刻な産業分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れるための制度です。
即戦力となる外国人材を受け入れる制度
特定技能は、現場ですぐに働ける「即戦力」を確保することを目的としています。そのため、受け入れる外国人は、業務に必要な技能試験と日本語試験に合格しているか、あるいは技能実習を3年間良好に修了している必要があります。[優松1] 基礎的な知識と経験を持っているため、教育コストを抑えて業務を任せることができます。
最長5年間フルタイムで就労可能
特定技能1号という資格では、通算で5年間の日本在留が認められています。アルバイトのような週28時間という就労制限はなく、日本人社員と同様にフルタイムで働くことができます。また、残業や休日出勤も日本の労働基準法の範囲内で可能ですので、繁忙期の戦力としても計算が立ちます。
参考:「留学」の在留資格に係る資格外活動許可について|出入国在留管理庁
技能実習とは異なり転職も認められる
技能実習制度はあくまで「技能移転(国際貢献)」が目的であるため、原則として転職はできませんでした。しかし、特定技能は「労働力の確保」が目的であるため、同じ業務区分内であれば転職が認められています。これは働く側にとってはメリットですが、企業側にとっては「より良い条件の会社へ移る可能性がある」ということを意味し、定着のための努力が必要になります。
特定技能で任せられる倉庫業務の範囲
物流倉庫で特定技能外国人を採用する場合、どのような業務を任せることができるのでしょうか。制度改正の動きを見据えつつ、一般的に想定されている対象業務について解説します。2027年頃の本格導入に向けた議論の中では、以下のような業務が含まれる見通しです。
| 業務区分 | 具体的な作業内容の例 |
| 庫内作業 | ピッキング、仕分け、検品、梱包、ラベル貼り |
| 在庫管理 | 入出庫管理、棚卸し、ロケーション管理、システム入力 |
| 荷役作業 | フォークリフト運転、パレット積み付け、トラックへの積込補助 |
ピッキングや仕分け、梱包作業が対象
物流倉庫の基本業務であるピッキング、仕分け、梱包といった作業は、特定技能の主要な対象業務となります。伝票やハンディターミナルを確認しながら商品を集めたり、配送先ごとに仕分けたりする業務は、定型的でありながら正確性が求められる仕事です。特定技能外国人は日本語の指示を理解できるレベルにあるため、これらの業務を円滑に行うことが期待できます。
在庫管理や入出庫、棚入れ業務も可能
商品の入荷検品や棚入れ、保管場所の管理といった在庫管理業務も対象に含まれます。倉庫管理システム(WMS)を使用したデータ入力や照合作業なども、一定のトレーニングを行えば任せることが可能です。単なる力仕事だけでなく、倉庫運営に関わる幅広い業務に従事してもらうことができます。
将来的にフォークリフト運転も含まれる
多くの物流現場で欠かせないフォークリフトの運転業務も、特定技能の対象として検討されています。ただし、フォークリフトの運転には日本国内での免許(技能講習修了証)が必要です。採用後に資格を取得してもらうことで、ピッキングから積載までの一連の業務を任せられるようになり、現場の多能工化が進みます。
参考:法務省出入国在留管理庁「【参考1】新たに追加等を行う分野に係る補足説明資料」
特定技能外国人を受け入れる企業の条件
特定技能外国人を雇用するためには、受け入れる企業側にもいくつかの条件が課されます。これは、外国人が不当な扱いを受けることを防ぎ、安定して就労できる環境を整えるためです。
物流分野特定技能協議会への加入が必須
特定技能制度では、分野ごとに設置された「協議会」への加入が義務付けられています。物流分野においても、国土交通省が管轄する協議会に入会し、構成員となる必要があります。これにより、業界全体での適正な受け入れや、法令遵守の徹底が図られます。加入手続きは、在留資格申請の前までに完了する必要があります。
労働法などの各種法令を遵守している
当然のことですが、労働基準法や社会保険関係法令を遵守していることが大前提です。過去5年以内に出入国管理法や労働関係法令に関する不正行為がないこと、また5年以内に労働関係法令違反等で罰金刑以上に処せられていないことが求められます。また、契約締結前1年以内および締結後に、受入れ機関の責めに帰すべき事由により外国人の行方不明者を発生させていないこと、同種業務の労働者を非自発的に離職させていないことも要件となります。さらに、税金や社会保険料の未納がないことも確認されます。
参考:法務省出入国在留管理庁「特定技能外国人受入れに関する運用要領」(PDF)
外国人を支援する十分な体制がある
特定技能1号の外国人を雇用する場合、企業は生活面や業務面での「支援」を行う義務があります。具体的には、入国前のガイダンス、住居の確保支援、公的手続きの同行、日本語学習の機会提供などです。自社でこれらの支援を行うのが難しい場合は、「登録支援機関」に支援業務を委託することも可能です。
参考:出入国在留管理庁「1号特定技能外国人支援・登録支援機関について」
日本人と同等以上の給与を支払う
特定技能外国人の給与は、同じ業務に従事する日本人社員と同等以上でなければなりません。不当に安い賃金で雇用することは禁止されています。経験や技能レベルを考慮し、適切な給与設定を行う必要があります。これは雇用の公平性を保つだけでなく、人材の定着を図る上でも極めて重要です。
採用できる特定技能外国人の要件
企業側だけでなく、働く外国人本人にも要件があります。誰でも特定技能ビザを取得できるわけではなく、一定のスキルと日本語能力が求められます。
倉庫業務の技能評価試験に合格している
特定技能ビザを取得するためには、各分野で実施される技能評価試験に合格する必要があります。物流倉庫分野(仮称)においては、倉庫作業の知識や安全衛生、実技に関する試験が設定される予定です。ただし、関連する職種の技能実習2号を良好に修了している場合は、この試験が免除されます。
※2027年4月開始予定の「物流倉庫」分野は現在準備中であり、試験内容の詳細はまだ確定していません。また、技能実習2号の修了による試験免除は、技能実習の職種と特定技能の業務に「関連性」がある場合に限られます。
参考:法務省出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック」(PDF)
日常会話レベルの日本語試験に合格している
業務上の指示を理解し、円滑なコミュニケーションを取るために、日本語能力も必要です。具体的には、「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT)」のN4レベル以上の合格が条件となります。これは、基本的な語彙や漢字を理解し、日常的な場面でややゆっくりであれば会話ができるレベルです。
参考:よくある質問|JFT-Basic国際交流基金日本語基礎テスト
18歳以上で健康状態が良好である
特定技能の在留資格を申請できるのは、満18歳以上の外国人です。また、業務を遂行するのに支障がない健康状態であることも求められます。定期健康診断の結果などを提出し、健康であることを証明する必要があります。
特定技能で倉庫人材を受け入れるメリット
準備や手続きが必要な特定技能制度ですが、それを上回るメリットが企業にはあります。多くの企業が導入を進める理由はどこにあるのでしょうか。
安定した労働力を長期的に確保できる
最大のメリットは、最長5年間という期間、フルタイムで働ける人材を確保できることです。留学生アルバイトのような週28時間の制限がなく、[優松9] 卒業による帰国リスクも低いため、中長期的な人員計画が立てやすくなります。安定した労働力が確保できれば、現場の運営もスムーズになります。
繁忙期にも柔軟な人員配置が可能になる
物流業界にはお中元やお歳暮、セール時期などの繁忙期があります。特定技能外国人は残業や休日出勤も可能なため、こうした繁忙期の業務量変動にも柔軟に対応できます。シフトの調整がしやすくなることで、既存社員の負担軽減にもつながります。
若く意欲のある人材の採用につながる
特定技能で来日を希望する外国人は、20代から30代の若年層が中心です。体力があり、学習意欲も高い人材が多いため、現場の活性化が期待できます。彼らの真面目な働きぶりは、周囲の日本人スタッフにも良い刺激を与えることがあります。
特定技能の受け入れで注意すべき点
メリットの一方で、導入前に知っておくべき注意点やリスクもあります。これらを理解した上で対策を講じることが、成功への鍵となります。
受け入れ後の支援義務が発生する
先述の通り、特定技能1号の受け入れ企業には、広範な支援義務が課されます。これには専門的な知識や多言語対応が必要となるため、社内リソースだけで対応するのは負担が大きい場合があります。登録支援機関への委託費用など、ランニングコストがかかることも考慮しておく必要があります。
他社への転職が可能で離職のリスクがある
特定技能外国人は、条件さえ合えば他の企業へ転職することができます。「せっかく採用したのに、給料が高い他社へ移ってしまった」というケースも起こり得ます。そのため、給与水準の見直しや働きやすい環境づくり、キャリアパスの提示など、選ばれる企業になるための努力が欠かせません。
文化や習慣の違いへの配慮が求められる
国が違えば文化や習慣も異なります。宗教上の理由で特定の食材が食べられない、お祈りの時間が必要、といったケースもあります。こうした違いを理解し、互いに尊重し合える職場環境を作ることが重要です。日本的な「阿吽の呼吸」は通用しないため、業務マニュアルの整備や明確な指示出しが求められます。
特定技能の受け入れの流れ
実際に特定技能外国人を採用する場合、どのようなステップを踏めばよいのでしょうか。一般的な採用から就労開始までの流れを整理します。
手順1:求人募集と候補者の選定
まずは求人票を作成し、候補者を募集します。海外にいる外国人を採用する場合は現地の送り出し機関などを通じて、国内にいる外国人を採用する場合は人材紹介会社や自社媒体を通じて募集を行います。面接はオンラインで行うことも一般的です。
手順2:候補者との雇用契約を締結
採用する人材が決まったら、雇用契約を結びます。この際、日本人と同等以上の労働条件であることや、一時帰国時の休暇取得など、特定技能独自の要件を満たした契約書を作成する必要があります。契約書は母国語での説明や併記が求められます。
手順3:外国人への支援計画を策定
雇用契約と並行して、「1号特定技能外国人支援計画」を作成します。これは、入国から帰国までの間にどのような支援を行うかを具体的に定めた計画書です。自社で実施するか、登録支援機関に委託するかを決定し、その内容を記載します。
手順4:在留資格の認定証明書を申請
必要書類を揃えて、出入国在留管理庁へ在留資格の申請を行います。海外から呼び寄せる場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内の留学生などから変更する場合は「在留資格変更許可申請」となります。審査には通常1ヶ月から3ヶ月程度かかります。
手順5:ビザ発給後に来日し就労開始
審査が通り証明書が交付されたら、本人が現地の日本大使館などで査証(ビザ)の申請を行います。ビザが発給されれば来日が可能となります。入国後は、住居の手配や役所での手続きなどの支援を行い、生活基盤が整ってから実際の就労がスタートします。
参考:法務省「特定技能外国人受入れに関する運用要領」(PDF)
受け入れにかかる費用
特定技能外国人の採用には、通常の日本人採用とは異なる費用が発生します。予算を組む際の参考に、主な費用の内訳を見てみましょう。
人材紹介会社への紹介手数料が発生
人材紹介会社を利用して採用する場合、紹介手数料がかかります。相場としては、定額で20万円〜80万円程度が一般的です。が一般的です。海外からの採用か、国内採用かによっても金額は異なります。
登録支援機関への支援委託料
支援業務をすべて登録支援機関に委託する場合、毎月の委託料が発生します。外国人1人あたり月額2万円〜3万円程度が相場です。この費用には、定期的な面談や相談対応、行政への報告業務などが含まれます。
在留資格申請などの行政手続き費用
在留資格の申請を行政書士に依頼する場合、その報酬が必要です。申請の種類や事務所によって異なりますが、1件あたり10万円〜20万円程度が目安となります。
住居確保などの初期費用も必要
海外から呼び寄せる場合、渡航費や住居の敷金・礼金、家具家電の購入費などが発生します。渡航費は本人負担が可能ですが(ただし二国間協定で企業負担が定められている国を除く)、企業が住宅を借り上げて提供する場合の敷金・礼金・保証料は企業が負担する必要があります。一方、外国人本人が賃貸契約をする場合は、敷金・礼金は本人負担が基本です。
制度開始に向けて今から準備すべきこと
物流倉庫分野での特定技能受け入れが本格化するのは2027年頃と予測されています。しかし、制度が始まってから動いていては、優秀な人材の獲得競争に遅れをとってしまいます。今からできる準備を進めておきましょう。
登録支援機関など専門家への相談
まずは、特定技能制度に詳しい登録支援機関や行政書士などの専門家とコンタクトを取り、情報収集を始めましょう。[優松15] 制度の最新動向や、他業界での成功事例などを聞いておくことで、自社に合った受け入れプランを練ることができます。
多言語マニュアルなど受け入れ体制の整備
外国人が働きやすい環境を整えるためには、業務マニュアルの多言語化や、「やさしい日本語」への書き換えが有効です。また、掲示物や安全注意の表示などをイラスト付きで分かりやすくするなど、受け入れに向けた物理的な準備も進めておきましょう。
社内での異文化理解に関する研修
現場の日本人スタッフに対して、外国人受け入れの意義や異文化理解に関する研修を行うことも大切です。受け入れる側のマインドセットが整っていないと、現場での摩擦が起きやすくなります。「なぜ外国人を採用するのか」「どのような配慮が必要か」を共有し、協力体制を作っておくことが定着の鍵となります。
まとめ
この記事の要点をまとめます。
- 物流倉庫の特定技能は2027年頃の開始が見込まれており、ピッキングやフォークリフト等の業務が対象となる予定です。
- 制度活用には、業界団体への加入や支援体制の構築、日本人と同等以上の給与設定などが必要です。
- 導入により安定的な労働力確保が期待できますが、支援義務や異文化理解への対応も求められます。
特定技能制度は、物流倉庫の人手不足を解消する大きな可能性を秘めています。制度開始までの期間を単なる待ち時間とせず、受け入れ体制を整えるための準備期間と捉え、今から情報収集や社内環境の整備を進めてみてはいかがでしょうか。早期の準備が、将来の安定した人材確保につながるはずです。